|
|
|
|
|
|
|
| インターネットが世界を変える |
| ―新しい「パブリック」の形成を目指して |
| 『軍縮問題資料』(宇都宮軍縮研究室発行)1999年1月号 |
|
冷戦終結後、核兵器をめぐる世界の状況は、緩慢ではあるが、一変した。国際司法裁判所も「核兵器の使用と威嚇は一般的には違法である」であるという画期的な勧告的意見を採択し、核兵器国には「核軍縮に向けて誠実に交渉する義務がある」ことを勧告した。国連でもこの三年間連続して核兵器廃絶を議題とする交渉の開始を求める決議が採択されている。
米スミソニアン博物館の企画による原爆展開催の是非についての論争、紛糾した核不拡散条約(NPT)の無期限延長交渉、新らしい二地域の非核地帯条約制定、フランスと中国の核実験に対する国際的猛反発、NPT論争から生じた包括的核実験禁止条約の締結、米ロの臨界前核実験に対する国際的非難なども、核兵器廃絶の流れに掉さす効果を上げているといえよう。 私の胸には一九八一年〜八四年に欧米諸国で発生した未曾有の大衆運動が甦ってくる。毎月、いや毎週のように、三十万人、四十万人、五十万人という空前の規模をもった群衆がボン、ロンドン、アムステルダム、ローマ、ブリュッセル、ヘルシンキ等を席巻し、八二年六月十二日にはついに海を越えたニューヨーク市に百万人の人びとが結集したのだった。 核兵器をめぐる世界の状況が大きく変化したのはあの破天荒の反核市民運動以来のことである。米ソの核配備を阻止するという直接の目的は達成できなかったが、あの大衆運動が米ソ冷戦終結への引き金になった。中距離核戦力(INF)全廃条約締結を皮切りに、米ソ(ロ)の核削減交渉は進み、一時期七万発にまで増殖した核兵器はその半分以下にまで減った。 かつて核「廃絶」の叫びはヒロシマ・ナガサキの小さな声に過ぎなかった。核「軍縮」と「凍結」が主流だった。しかし、もはやそうではない。アボリション二〇〇〇年運動、キャンベラ委員会の勧告、六〇人を超える米英ロの元将軍たちの声明、一二〇人におよぶ世界の元文民指導者の宣言など、良識ある世界のオピニオンリーダーたちは等しく核兵器「廃絶」を訴えている。昨年、米国で実施された世論調査でも、「核兵器がない方が国は安全」という意見が八七%に達した。 インターネット上の核廃絶運動も活発である(ここではMLも含むものとする)。百家争鳴というのに相応しいホームページがインターネット空間を飛び交っており、電子メールと合わせて活用する「茶の間からのロビー活動」が大流行である。大統領、首相、大臣、司令官にも直接電子メールで訴えることができる。これから紹介するのもそうした新しい平和運動の一つであり、誰でも居ながらにして参加することができる。 毎月最後の五日間、核兵器国の最高首脳に核兵器廃絶を直接に訴えるのである。宣言や声明の中から一気に読める長さだけのテキストを厳選し、電子メールで送る斬新な運動である。スー・クラーク、マーヴィン・クラークというニューヨーク州トロイ市在住の二人が共同代表を務める「グローバル・ディミリタリゼーション地球非軍事化運動」が始めたもので、一九九六年七月に発足した。 三年目の現在、三千以上の団体・個人が加入している。無料である。コンピュータと無縁な人はファクス、はがき、電話などを使ったらいい。日本では九月に「日本発核廃絶プロジェクト」(NNJP)が結成され、本部は広島平和教育研究所に置かれることになった(ファクス:082-264-1757、電子メール:nnj@sweet.potato.ne.jp、ホームページ: http://www.potato.or.jp/~hipe/nnjp02.htm)。 メッセージを送付する相手は、一九九八年十月現在、核兵器を保有している八カ国、すなわち米国、ロシア、英、仏、中国、インド、パキスタン、およびイスラエルの首脳である(読者の参加希望に備え、本稿末尾に宛名と電子メールアドレスを示した)。 最も簡単な方法はクラーク夫妻から送られてきた原文を「カット&ペースト」して、自分の名前、アドレス、国名を記し、「送信」のキーをポンと叩けばよい。自分の電子メール宛名を夫妻に知らせておけばメッセージは毎月自動的に送られてくる。もちろん、英語が堪能で時間的ゆとりのある人は自分で作った独自のメッセージを書いて送ったらいい。米ホワイトハウスの場合は数時間以内に礼状を送ってくる。(「電子メール爆弾」になることを危惧する向きもあるが、この場合、その心配はないということである)。
この運動の母体となったのは「アボリション二〇〇〇年運動」(Abolition 2000)というNGOの国際組織だった(http://www.napf.org/abolition2000/)。「アボリション二〇〇〇年運動」は、期限を切った核兵器廃絶計画を西暦二〇〇〇年までに国際社会の合意にすることを目指している。一九九五年のNPT延長会議の際に集まった六〇以上のNGOが提唱し、一九九五年十一月にオランダのハーグで正式に発足した。 核軍縮ではなく核廃絶を目標に掲げており、一九九八年十月現在、すでに七七カ国へ広まっており、千を超える世界中のNGOが加盟している。 マクス・フランクルというニューヨークタイムズ紙のベテラン記者が書いている。自国は核兵器をもつが他国にはもたせないというNPTの「方針は人間性と理性を侮辱するものだったが、それが米国の核政策の基本になった」、と。 かつてキージンガー元西独宰相は「NPTはアル中患者の禁酒運動だ」と喝破したが、公平な国際社会を建前とする国連でこれほど理不尽な条約が罷り通ってきたのは、まことに「人間性と理性を侮辱するもの」だった。 だからフランクル記者は自己批判する。「…私たちマスコミはNPTのペテンを余り考えもせずに持ち上げてきた。私たちは、あらゆる種類の他の人種隔離と差別に反対するキャンペーンをはってきたのに、『除外は除外された者の利益である』というNPTの倒錯した論理を問題視しなかった」、と。 この「倒錯した論理」はインドとパキスタンの核実験でかつてない危機的状況にある。このままだと、二年後に開かれるNPT再検討会議でNPT脱退宣言が多発するのは避けられまい。もともと「安定している核抑止体制」などというのは幻想にすぎず、米ソの核軍拡競争が開始されて以来、世界は文字通り「ダモクレスの剣の下にあった」。 相互確証破壊(MAD)を原理とした核抑止論には科学的根拠は何もない。「安定性」は恐怖の均衡に基づく自己欺瞞的な主観的知覚に過ぎなかった。冷戦終結後の現在でも、中国以外の核兵器国が核の先制使用を堅持している以上、この現実は変わっていない。しかし、インドとパキスタンの核実験は核抑止体制の自己欺瞞的な主観的知覚さえ吹き飛ばしてしまった。米ロ英仏中という宣言核兵器国の核戦略は信頼できるが、インドとパキスタンの核戦略は信用できないという差別丸出しの偏見は、NPTの「核アパルトヘイト」的仕組みを見事に反映している。 主要新聞の記者がマスコミの核報道批判に直結する懺悔の記事を寄稿するのは稀有である。大新聞は商業紙であり、体制の一翼を担ってもいるわけだから、核抑止論のような大問題については世論の変化が逆方向への臨界地点に達する前に従来の報道姿勢を変えることは滅多にない。 ニューヨークタイムズに限らず、世界の大新聞は核抑止体制を暗黙の中に容認してきた。日本の大新聞も例外ではなかった。フランクルの記事が特筆に値するのは、彼が大新聞の記者だからである。そうした個人プレイが容認されている大新聞社のありかたにも興味をそそられる。 インターネットによる核抑止体制批判の登場とグローバルな広がりは、今後の国際的な世論形成を占う極めて重要な鍵を提供している。というのは、インターネットがマスコミ報道に依存しない情報交換の可能性を示しているからである。政党や平和団体の機関紙・誌やミニコミ紙は対象が限られていた。インターネットの潜在的対象は無限である。一般のマスコミの世論形成能力は今後ますます低下して行くだろうし、若者のマスコミ離れはすでに現実のものとなっている。 これまで軍事情報は政治家、官僚、軍人、大企業、科学者など、いわゆるエリートが独占してきたが、インターネットによる情報革命の結果、情報は民主化され、初めて「パブリック」な関心をもった人びとによる政治が生まれようとしている。「お上」や「公」ではない真の「パブリック」がインターネットを媒介にして形成されつつある。 情報手段の民主化は平和運動にとって追い風である。世界各地の活動家はインターネットによって緊密に結ばれ、情報は瞬時に世界を駆け巡る。核兵器国の首脳への電子メール発信キャンペーンがどういう効果をもたらすか、その潜在的可能性には侮り難いものがある。 茶の間や職場から発せられる核兵器廃絶のメッセージが国際政治を動かすかも知れないという着想には、民衆こそ国際政治の主役であり、歴史の主体であるという信念がこめられている。 なお、つぎのホームページも核廃絶情報源として有益である。 核兵器国首脳のアドレス。 The White House Washington, DC 20500, USA tel +1-202-456-1111 fax +1-202-456-2461 email president@whitehouse.gov web: http://www2.whitehouse.gov President Vladimir Putin Office of the Government Krasnopresenskaya 2 Moscow, RUSSIA tel +7-095-925-3581, fax +7-095-205-4219 email webmaster@gov.ru Prime Minister Tony Blair Prime Minister's Office 10 Downing Street London, SW 1A 2 AA, BRITAIN tel +44-171-270-3000 email gbrun@undp.org President Jacques Chirac Office du President, Palais De L'Elysee 55-57 rue du Faubourg St. Honore 75008 Paris, FRANCE tel +33-1-4292-8100, fax +33-1-4742-2465 email fraun@undp.org President Jiang Zemin Office of the President 225 Chaoyangmennei Dajie, Dongsi Beijing, P. R. CHINA email chnun@undp.org Prime Minister Atal Bihari Vajpayee Prime Minister's Office South Block New Delhi 110011, INDIA tel +91-11-3013040, fax +91-11-3016857 email indun@undp.org General Pervez Musharraf Office of the Chief Executive Islamabad, PAKISTAN telex 5742 email CE@pak.gov.pk Prime Minister Ariel Sharon Office of the Prime Minister 3 Rehov Kaplan, Hakirya Jerusalem 91007, ISRAEL tel +972-2-705555, fax +972-2-664838 email pm@pmo.gov.il クラーク夫妻のアドレス Sue & Marvin Clark Co-directors Global Demilitarization 42 Maple Ave. Troy, NY, 12180 USA tel +1-518-274-0784 email clarkg2@rpi.edu |
| 「平和学評論」表紙に戻る |
| 「平和学」表紙に戻る ホームページ表紙に戻る |